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【メッキのプロ直伝】無電解ニッケルめっき皮膜は後処理でさらに硬くなりますが、どうして硬くする事ができるのでしょうか?

更新日:2023年10月15日

メッキにはさまざまな目的があります。

最も典型的な目的は素材を腐食などの劣化から守り、耐久性を向上させる耐食性の確保です。


その一方で、アルミニウムなどの柔らかい金属の場合、その表面を硬いものにして傷などを付きにくくするための硬度向上も大きな目的の一つです。


無電解ニッケルメッキを行う場合も、硬度が高くなります。

本記事では、「硬いメッキ」としての無電解ニッケルメッキに着目し、その特徴や用途について解説します。


無電解ニッケルメッキをご検討中の方だけでなく、単に素材の表面を硬いものにする技術をご検討中という方も是非参考にされてください。


■INDEX■


  ・表面を硬くするメリットと耐摩耗性

  ・代表的な硬度向上を目的とする表面処理


  ・無電解ニッケルメッキの原理

  ・無電解ニッケルメッキの一般的特徴

  ・無電解ニッケルメッキの硬度

  ・無電解ニッケルメッキの用途


  ・熱処理(ベーキング)とは

  ・熱処理による硬度向上

  ・熱処理における注意点





 

1.メッキと硬度

1.1.表面を硬くするメリットと耐摩耗性


主に金属材料の表面処理として行われるメッキという技術。

メッキにはいろいろな機能が含まれており、目的もさまざまです。


見た目を美しく見せるための装飾性、腐食から守り耐久性を向上させる耐食性、他にも熱や電気に対する特性を持たせるパターンもあります。

表面を硬くする「硬度向上」もメッキの目的の一つになることがあります。


例えばアルミニウムのような柔らかい金属において、表面が素材剥き出しの状態だと、何かに接触したときに簡単に傷がついてしまいます。また、一度で傷がつくことはなくても、繰り返し使用しているうちに材料が表面から消耗してしまったり削れてしまうこともあります。

硬い表層で保護しておけば、このような状況も起こりにくくなります。このような性質を「耐摩耗性」と言います。


耐摩耗性は、摺動部といわれる部品同士が接触して動くような箇所では、その部品の耐久性に関わるとても重要な性質となります。

硬度とともに耐摩耗性を向上させ、柔らかい材料でも耐久性を増すことはメッキの重要な役割です。

本記事では、硬い表層を作り出す無電解ニッケルメッキを中心に、その硬度に着目して解説します。


1.2.代表的な硬度向上を目的とする表面処理

無電解ニッケルメッキの話に入る前に、表面を硬くして耐摩耗性も向上させる目的で適用される技術をいくつかご紹介します。硬度を上げるメッキの中でも、代表的なものとして挙げられるのは硬質クロムメッキです。


硬さの指標としてよくビッカース硬度という値が用いられますが、硬質クロムメッキのビッカース硬度は800~1000Hv程度です。

参考までに数値を紹介すると、一般的な機械で使用するS45Cという鋼のビッカース硬度が200~300Hv程度、アルミ合金は45~100Hv程度しかありませんので、硬質クロムメッキがいかに硬いかがわかります。


無電解ニッケルメッキの硬度については後で詳細に説明しますが、無電解ニッケルメッキは、硬度を上げる一般的な表面処理方法としてはこの硬質クロムメッキと双璧をなす存在です。


特別に高い硬度が必要な場合は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングという方法なら3000Hv程度、窒化チタンコーティングでHv2000程度まで上げることも可能です。



2.硬度の高い「無電解ニッケルメッキ」とは

2.1.無電解ニッケルメッキの原理

いよいよ本題である無電解ニッケルメッキの話に入ります。

無電解ニッケルメッキは、通常の電解メッキとは違い、電極を使用して電流を流す作業を行いません。

素材をメッキ液内に浸すことで、まず材料自体が触媒となり電子を放出し、ニッケル皮膜が析出します。その後も今度はニッケルが触媒となって皮膜を厚くしてゆきます。


このように、化学反応のみでメッキ皮膜が生成されてゆくのです。

メッキの厚さは反応の時間とほぼ比例するため、メッキ時間によって管理します。


電解メッキであれば、電極からの位置によって皮膜の着き方にムラが出てしまうことがありますが、電極の影響がない無電解ニッケルメッキはムラなく均一にメッキすることができます。

また、複雑な形状の素材であっても、その均一性は保たれます。


前にご紹介した硬質クロムメッキは電極を用いるメッキなため、均一性という面では無電解ニッケルメッキの方が優れています。


2.2.無電解ニッケルメッキの一般的特徴

一般的な無電解ニッケルメッキは、ニッケルベースの皮膜にリンがわずかに含まれるニッケル-リン合金の皮膜が生成されます。


リンの含有率によって、低リンタイプ(1~4%)、中リンタイプ(7~10%)、高リンタイプ(11%以上)に分けられます。硬度以外の特徴として挙げられるのは耐食性の高さで、リン含有率が高いほど耐食性が高くなります。


電解メッキと比べると、ピンホールといわれる皮膜にできる穴が少なく、そういったところから発生する錆も起きにくくなります。

はんだ付け性に優れ、そのため電子基板などに用いられることもあります。


メッキ時に通電を行わないので、通電しない素材でもメッキができる場合があります。

なお、メッキ皮膜自体は通電性を持ちます。


2.3.無電解ニッケルメッキの硬度

一般的特徴で述べた耐食性と並び、無電解ニッケルメッキの大きな特徴は、硬度が高いことです。

皮膜となるニッケル-リン合金という物質はそれ自体が高い硬度を持っているためです。


析出状態での無電解ニッケルメッキの硬さをビッカース硬度で表すと、低リンタイプで700Hv程度、中リンタイプと高リンタイプで550Hv程度です。


硬質クロムメッキほどではありませんが、素材となる鉄やアルミニウムと比べると十分に高い硬度を有し、耐摩耗性も向上します。さらに硬度を硬質クロムメッキレベルまで増す方法もありますが、それは次の章でゆっくりご説明します。


2.4.無電解ニッケルメッキの用途

無電解ニッケルメッキの用途はさまざまありますが、代表的なものをご紹介します。

まずは本記事の主題である硬度や耐摩耗性を活用した使用例です。


例えば、自動車の分野ではディスクブレーキ、ピストン、シャフトなど他の部品と接して動く部品が多く、柔らかい部品のままでは早く消耗してしまいます。このような用途に無電解ニッケルメッキの耐摩耗性は大きく役立つため、自動車部品や船舶・航空機部品などに多く使われます。


また、軸受や歯車、工作機械の部品なども耐摩耗性や硬度が必要となる場面が多く、同様に無電解ニッケルメッキが活用されます。これらの部品は同時に複雑な形状でもメッキが均一に行われる必要がある精密部品でもあり、無電解ニッケルメッキには特に優位性がある分野です。

さらに、耐食性や耐摩耗性の他に離型性にも優れており、成形用金型に使用される場合もあります。


無電解ニッケルメッキの他の性質として、通電性やはんだ付け性が優れていることも挙げられ、電子基板のような電子部品やハードディスクの下地処理にもよく適用されます。



3.無電解ニッケルメッキをさらに硬くする方法

3.1.熱処理(ベーキング)とは


無電解ニッケルメッキは、析出しただけの状態でも高い硬度を持つことはここまでご紹介した通りです。しかし、用途によってはより高い硬度を要求するものもあります。


そのようなときに用いる方法として、後処理で熱処理(ベーキング)を行うことがあります。

熱処理とは文字通り、無電解ニッケルメッキを行った後に熱を加える処理のことです。

熱処理を行うことで、硬度や耐摩耗性のさらなる向上の他、密着性を上げたり水素脆性を除去することもできます。


3.2.熱処理による硬度向上

無電解ニッケルメッキにおける硬度は、皮膜のニッケルとリンの合金の硬度によるものでした。

熱処理を行うと、このニッケル-リン合金(Ni-P)は結晶化しNi3Pとなり、硬度が上がります。


硬度が向上する熱処理の温度は、この結晶が微結晶質になる300~400℃付近です。

あまり熱処理温度を上げてしまうと、結晶粒が大きくなってしまい、むしろ硬度低下を招いてしまう恐れもあります。熱処理による硬度への影響は、リン含有量によって異なります。


元々結晶質の低リンタイプでは熱処理による硬度への影響も少なく、最大でもビッカース硬度700Hv→930Hvぐらいです。

中リンタイプや高リンタイプでは熱処理による影響も高く、最大で550Hv→950Hvぐらいまで上昇します。


熱処理後の無電解ニッケルメッキのビッカース硬度の数値は、先にご紹介した硬質クロムメッキにも匹敵する硬度です。


3.3.熱処理における注意点

硬度を上げるのに効果的な熱処理ですが、行うにあたって注意しておかなければならない点がいくつかあります。


熱処理は硬度を上げる代わりに、耐食性を下げてしまいます。

耐食性に有利に働いていた皮膜のアモルファスという構造が、熱処理の結晶化に伴いなくなってしまうからです。


また、熱を加えると材料は熱ひずみを発生し、元の形状の精度を乱してしまう可能性もあります。

外観も熱処理の影響で変色してしまいます(窒素雰囲気で熱処理を行うなど対応策はあります)。

したがって、熱処理は外観や耐食性をそれほど求めず、硬度や耐食性に大きく優位性が必要な場合に適した方法となります。


なお、中リンタイプの無電解ニッケルメッキは非磁性の性質を持っていますが、結晶化に伴い磁性に変わってしまうこともあります(高リンタイプであれば非磁性を維持します)。



4.無電解ニッケル-ボロンメッキという方法

無電解ニッケルメッキの硬度の話として、もう一つ触れておきたいのが無電解ニッケル-ボロンメッキです。

ここまでご紹介した無電解ニッケルメッキは、皮膜にニッケルとリンの化合物が析出したものでした。

無電解ニッケル-ボロンメッキは、いわばリンの代わりにボロン(ホウ素)が含有したものです。


無電解でのメッキ方法であることに変わりはないので、皮膜の均一性や複雑な形状への適用の性質は無電解ニッケル-リンメッキと変わりません。

その上でこの方法は、析出の状態で800Hvほどの高いビッカース硬度を持っており、これは同じく析出時に硬度の高かった無電解ニッケル-リンメッキの低リンタイプより大きな値です。


また、無電解ニッケル-ボロンメッキを熱処理すると、最大1000Hvぐらいまで硬度を上げることもできます。熱処理を行ったとき、無電解ニッケル-ボロンメッキは変色が少ないのも特徴です。


耐熱性も高く、熱間で使用する部材に適しています。

一方で、無電解ニッケル-リンメッキと比べると耐食性では劣ってしまいます。

また、コスト面では高額になってしまうのもデメリットといえます。



5.まとめ

無電解ニッケルメッキの硬度について、その特徴を他の技術との比較なども交えて解説しました。

以下はそのまとめです。


  • メッキの大きな目的の一つとして表面の硬度及び耐摩耗性の向上があるが、無電解ニッケルメッキは硬質クロムめっきと共にその有効な方法である。

  • 無電解ニッケルメッキは皮膜のニッケル-リンの合金自体の硬度が高く、析出状態でも低リンタイプで700Hv程度、中リンタイプと高リンタイプで550Hv程度と高い硬度を示す。

  • 無電解ニッケルメッキを熱処理すると、皮膜のニッケル-リン合金が結晶化し、Hv950程度まで硬度を上げることができる。

  • 熱処理した無電解ニッケルメッキは耐食性は下がってしまう。

  • 析出状態でも高い硬度を持つ無電解ニッケル-ボロンメッキは、熱処理を行っても変色しないという特徴も持っている。


材料の表面の硬度を上げたいなど、無電解ニッケルメッキをご検討中のお客様は是非お気軽にご相談ください。



6.当社における無電解ニッケルメッキのご対応について

当社にて鉄、ステンレス、アルミニウム、銅・銅合金などへの無電解ニッケルメッキの処理対応可能です。他の材料でも対応可能ですので、ご相談ください。

無電解ニッケルリンの低リン・中リン・高リンの対応ももちろん可能ですが、無電解ニッケルボロンも対応可能です。


無電解に関してお気軽にご相談下さい。


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【著者のプロフィール】

1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。

30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。




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