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【メッキのプロ直伝】無電解ニッケルメッキの均一性を利用したさまざまな用途

更新日:2023年11月18日

鉄やアルミなどの表面処理の方法として、無電解ニッケルメッキがあります。

無電解ニッケルメッキの皮膜には、さまざまな特徴があります。

硬度や耐食性の良さがクローズアップされることもありますが、皮膜が均一に生成され、寸法精度に優れていることも重要な特徴です。


無電解ニッケルメッキが寸法精度に優れているおかげで利用される事例も多くあります。

意外な活用法だと、研磨で削りすぎた部分の修正なども無電解ニッケルメッキでできたりします。

本記事では、そのような無電解ニッケルメッキの精度に関するトピックを主体として、寸法精度の目的で行われる事例もご紹介します。

これまで考慮していなかった意外なメリットも見つかるかもしれませんので、是非ご一読ください。


■INDEX■


  1.1 無電解ニッケルメッキの原理

  1.2 無電解ニッケルメッキを行う主な目的

  2.1 皮膜の生成プロセス

  2.2 皮膜の均一性(寸法精度)

  2.3 膜厚の管理方法

  2.4 寸法の確認

  3.1 精密機械の部品

  3.2 金型

  3.3 ハードディスクの下地

  3.4 部分修正


 

1.無電解ニッケルメッキとは

1.1 無電解ニッケルメッキの原理

素材にニッケルの皮膜を付着させるニッケルメッキには、電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキがあります。

下の図に示しているのは、電解ニッケルメッキと無電解ニッケルメッキの原理図です。



【電解ニッケルメッキの原理】

電気メッキの原理


【無電解ニッケルメッキの原理】

無電解メッキの原理


電解ニッケルメッキはメッキの際に電極を用いて通電してニッケル皮膜を生成するのに対し、無電解ニッケルメッキは通電を行いません。

無電解ニッケルメッキの場合、メッキ液内の電解液による作用で化学反応が起き、最初は素材を触媒として電子が発生し、ニッケルイオンを還元して皮膜が生成されます。

電極を用いない無電解ニッケルメッキは、さまざまな特徴を有し、電解ニッケルメッキに対してもいくつかの優位性があります。


1.2 無電解ニッケルメッキを行う主な目的

無電解ニッケルメッキを行う主な目的は2つです。

1つ目は耐食性です。

ニッケルの皮膜はそもそも腐食しにくく、素材を覆うことで耐食性が増す性質があります。

ただし、1箇所でも皮膜に穴や欠陥があると、その箇所から腐食が進展してしまいます。

無電解ニッケルメッキの皮膜は電解ニッケルメッキのものより緻密で密着性も高く、ピンホールのような欠陥の発現率も少ないです。

そのため、耐食性も高くなります。


もう1つは硬度です。

アルミニウムのような柔らかい素材の表面を硬くし、他の部品と接触して動く摺動部品などに活用します。これも緻密で密着性の高い無電解ニッケルメッキの皮膜は有利です。

また、無電解ニッケルメッキの皮膜はニッケルとリンの化合物でできており、この物質は純ニッケルで構成される電解ニッケルメッキの皮膜より硬いです。

他にも、無電解ニッケルメッキにははんだ付け性や導電性などの性質もあります。

電解ニッケルメッキと違い、金属以外であってもセラミックスやプラスチックなどさまざまな物質にメッキをすることができるという利点もあります。



2.無電解ニッケルメッキの皮膜の生成方法と均一性(寸法精度)

2.1 皮膜の生成プロセス

本記事では、上記のような性質を持った無電解ニッケルメッキの皮膜の寸法的な特徴を少し詳しく述べてゆきます。原理でも述べた通り、無電解ニッケルメッキは初めは素材を触媒として電子を発生させ、その電子を利用する化学還元を行います。


還元されたニッケル皮膜が素材に付着し、その後も今度は付着した皮膜が触媒となり、反応が継続します。要するに、素材を皮膜に漬け込むだけで、時間の経過に応じて皮膜が成長して、厚さを増してゆくのです。同じ素材であれば、素材のどの面からも同様の反応が起こりますので、複雑な形状であっても余すことなく皮膜は付着し、同じ速度で成長してゆきます。


2.2 皮膜の均一性(寸法精度)

そのような皮膜の生成プロセスを持っていることから、どんな素材面であっても、皮膜は同じ厚さで均一に生成されます。電解ニッケルメッキの場合、電極からの位置に応じて反応が疎らになることから、このような均一性は保証されません。この点は無電解ニッケルメッキの非常に大きなメリットと言えます。


そもそもメッキ皮膜の厚みは、素材に対してとても薄いので、物によっては寸法面での影響は考えないものもありますが、精密な部品や微小サイズの部品などにメッキを行う場合、この性質は重要な役割を持ちます。


メッキ厚さであるμm単位での寸法精度が必要な場合などは、無電解ニッケルメッキはばらつきも少なく、精度の高い表面処理方法と言えます。

また、そもそもの耐食性や耐摩耗性の性質においても、皮膜の厚さが性質の良否に影響するので、皮膜の均一性は品質の均一性にも繋がります。


2.3 膜厚の管理方法

通常、製品をメッキ依頼するときは、膜厚を指定します。

メッキの膜厚は製品の品質や機能性に大きく影響するため、十分な検討が必要で、メッキメーカーにとっても、その管理がしっかりしているかどうかは重要な要素となります。前述のように、メッキ皮膜はメッキ液に漬け込んでいる時間とともに成長してゆき、厚さを増してゆきます。


この厚さの成長はメッキ液の構成に応じて時間に比例し、成長速度は概ね一定の値になります。

この速度のことを、析出速度と言います。メッキメーカーは、メッキ液を構成したらダミー素材でこの析出速度を計測し、それに時間を掛け合わせることでメッキ皮膜の調整を行います。当然、漬け込んでいる時間が長いほど、厚い皮膜が得られます。


皮膜は複雑な形状においても均一に成長するので、この方法でメッキ皮膜を管理することができます。

なお、状況によってはダミーと同時に製品をメッキし、適宜ダミーの膜厚を計測しながらリアルタイムで膜厚を調整してゆく方法もあります。


2.4 寸法の確認

寸法の計測や確認には様々な方法があります。

例えば、蛍光X線検査という方法は、物質にX線を当てたときに放射される物質固有の蛍光X線の線量を計測する方法です。この方法だと、どんな皮膜がどのぐらいの量(厚さ)付着しているかを定量的に測ることができる上、非接触非破壊で何箇所でも計測することができます。


もちろん、そこまで大規模な装置を使わなくても、皮膜は均一なので、どこか指定された点のメッキ前後の寸法をマイクロメータなどで計測して、その差を皮膜の厚さとして管理する方法もあります。

また、皮膜も含めた断面の状態や均一性などを詳しく可視的に調べたい場合は、断面を切って顕微鏡観察して計測することもあります。

この場合、製品もしくはダミーを切断して観察することになりますので、製品の破壊することができない場合などは適用できません。


無電解ニッケルメッキの場合は同じ条件であればメッキの再現性も高いため、ダミー1つの観察で製品のものと同じ断面状況が期待できます。



3.無電解ニッケルメッキの寸法精度を利用した用途

3.1 精密機械の部品

均一性という性質に加え、徹底的に寸法精度を管理できることも相まって、無電解ニッケルメッキは、電解ニッケルメッキでは難しかった用途にも適用されます。


例えば、バルブ、軸受、光学機械部品、工作機械部品などのような精密部品です。

これらのような部品は、いずれも非常に高い寸法精度で他の部品と組み合ったり接していたりするので、それぞれの寸法精度も高くなければなりません。


また、機械部品となると、何度も使用しているうちにかじりや摩耗が起き、材料が耐えられなくなってしまうことがありますが、これも避けなければなりません。

耐摩耗性といわれるこのような性質は、一般に硬い表面では強くなり、それを目的としてアルミニウムなどの柔らかい材料に無電解ニッケルメッキを行うパターンも多いです。


3.2 金型

プラスチック材などの金型に無電解ニッケルメッキが使われることもあります。

金型は製品となる物のベースになるものなので、これが寸法が狂っていたり均一性に欠けてしまうと、当然製品の精度も下がってしまいます。

均一性の高い無電解ニッケルメッキだと、元の金型を設計すれば、微細な部分でも形状を狂わすことなく表面処理を行えるということになります。


また、無電解ニッケルメッキは皮膜の密着性も高く、型に使っていても簡単に表面が剥離することもありません。なお、金型のような用途の場合、離型性と言われる性質も必要となります。

離型性とは、型として使用したときなどに表面に物質が残留しない性質で、これが優れていれば型としての性質も優れます。このような性質を付与するため、無電解ニッケルメッキの皮膜にテフロンを複合させるテフロン複合無電解メッキをおすすめすることもあります。


3.3 ハードディスクの下地

無電解ニッケルメッキはハードディスクにも活用されています。

ハードディスクにメッキというのはイメージしにくい用途かもしれませんが、実は無電解ニッケルメッキが下地メッキとして使われているのです。ハードディスクの下地はアルミ素材であることが多いです。


ハードディスクはアルミ板に磁性膜が貼られている状態が基本構造で、これを高速回転させ、ヘッドを近づけてデータの読み取りなどを行います。下地のアルミ板には、主に硬度を付与する目的で表面処理を行う必要があり、そこに無電解ニッケルメッキが利用されます。


回転に伴い、寸法がずれていてヘッドとの距離が一定にならなければ、うまくデータも読み取れないため、下地に行うメッキも均一で精度が高い必要があるのです。また、磁性膜を貼る前のアルミ板の状態では、非磁性の性質を持っていなければならないため、無電解ニッケルメッキの磁性を持たない性質も生きてきます。


3.4 部分修正

もう一つ、少し特殊な活用方法をご紹介します。

無電解ニッケルメッキを行う素材においても、加工時には研磨を行うことがあります。

精密な部品の場合、このような研磨もやりすぎてしまうと精度に影響を与えてしまうことがあります。


無電解ニッケルメッキの形状を維持したまま寸法を大きくすることができる性質を利用し、そのように研磨しすぎた箇所の補修などに利用することもできます。


無電解ニッケルメッキはマスキング処理を行うことによって、必要な部分のみメッキをして、他の部分はメッキをしない部分メッキも可能です。これを利用して、製品の部分修正を行うことも可能です。

複雑な形状であっても、無電解ニッケルメッキの性質上、この方法で補修が可能です。



4.当社の対応

弊社 株式会社コネクションは無電解ニッケルメッキに対応しております。

処理可能サイズとして、アルミニウムですと500mm×405mm t86mmまで実績がございます。


また、削りすぎたシャフトの寸法補修、電気ニッケルメッキからの無電解ニッケルメッキへの変更など

様々な無電解ニッケルメッキの活用をご提案させて頂いております。


他の材料やサイズにつきましては、お気軽にご相談ください。

膜厚は1μm単位で調整いたします。

製品の部分的なマスキング対応、研磨工程など対応可能で、部分修正にも対応いたします。



5.まとめ

本記事は、無電解ニッケルメッキの均一性や寸法精度を主題に解説しました。

以下はそのまとめです。


・無電解ニッケルメッキはメッキ時に電極を使用した通電を行わず、複雑な形状のメッキでも均一な皮膜を生成することが可能である。

・無電解ニッケルメッキは膜厚の管理をすることで、所望の膜厚に精度高くメッキすることが可能で、寸法精度を高く仕上げることができる。

・無電解ニッケルメッキの寸法精度を利用して、精密部品への適用がよく行われる。

・無電解ニッケルメッキは、寸法精度に加えて密着性が高く、離型性の高いテフロン複合メッキを活用すればプラスチックなどの型にも適用できる。

・無電解ニッケルメッキは非磁性で硬度が高く、均一にメッキできるため、ハードディスクの下地メッキに適用される。

・無電解ニッケルメッキの形状を維持したままメッキできる性質を利用し、製品の部分修正に利用されることもある。



無電解ニッケルメッキ(カニゼンメッキ)に関するご相談に関しまして無料でございますのでお気軽にご連絡ください。


お急ぎの方はこちら 直通電話 090−6819−5609


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【著者のプロフィール】

代表取締役

1996年、福井工業大学附属福井高等学校を卒業後、地元のメッキ専門業者に入社、 製造部門を4年経験後に技術部門へ異動になり、携帯電話の部品へのメッキ処理の試作から量産立ち上げに携わる。

30歳を目前に転職し別のメッキ専門業者に首席研究員して入社。 メッキ処理の新規開発や量産化、生産ラインの管理、ISO9001管理責任者などを担当。




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