無電解ニッケルメッキは、さまざまな材料の多様な用途で用いられる技術です。
耐食性や耐摩耗性が高く、皮膜の均一性も高いので、複雑な素材形状の製品でも有効性が高いです。
しかし、そんな有能な無電解ニッケルメッキでも、問題が起きてしまう場面があります。
本記事では、とある膜厚不良の事例をご紹介し、問題点や改善策を示します。
また、他にも起こりうるメッキ不良の可能性についても挙げてゆきます。
本記事を通して、無電解ニッケルメッキを行う際の注意点の再認識やメッキ時のトラブル対策に繋げていただくことができれば、幸いです。
1.無電解ニッケルメッキとは
無電解ニッケルメッキの原理

無電解ニッケルメッキは、さまざまな素材に対して行うことができる表面処理です。
メッキというと多くの場合、皮膜の析出に際して通電を行う電解メッキを用いますが、無電解ニッケルメッキは通電の必要がありません。
メッキ液に含まれる電解液が素材と反応して電子を放出し、その電子を用いて皮膜を生成します。
電解メッキの場合、電極の位置によって皮膜の付着量に差が生じてしまい、ムラが出てしまうことがありますが、無電解ニッケルメッキには基本的にその心配がありません。
また、シンプルな形状でも複雑な形状でも、素材表面が電解液と反応できることに変わりはないため、電解メッキで困難だった複雑な形状の表面処理にも適用できます。
無電解ニッケルメッキの皮膜の特徴

ニッケルの皮膜には、高い耐食性があります。
無電解ニッケルメッキの皮膜の場合、ニッケルとリンの化合物から構成されているものが多く、これが電解ニッケルメッキの皮膜よりも高い耐食性を持ちます。
同じく電解ニッケルメッキと比較すると、無電解ニッケルメッキの皮膜の方が緻密で欠陥も少ないため、その意味でも耐食性に優位性があります。
なお、無電解ニッケルメッキの耐食性は皮膜の膜厚と強く関係するため、メッキ時にも膜厚をしっかり管理することが大切です。
このことはこの後にももう少しご紹介します。
また、無電解ニッケルメッキの用途として、耐食性に並んで用いられるのは、硬度や耐摩耗性です。
自動車や機械の部品のように素材同士が触れた状態で動く摺動部では、この性質が強く生かされます。
無電解ニッケルメッキの基本的な特徴や電解メッキとの比較は、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
無電解ニッケルメッキの皮膜の管理方法

無電解ニッケルメッキの耐食性がその膜厚によって左右されるなど、メッキ時の膜厚の管理は重要です。
無電解ニッケルメッキの膜厚は時間に比例して厚くなります。
皮膜を生成するスピード(析出速度)は一定なため、時間を計測して膜厚を調整する方法が一般的です。
析出速度は、あらかじめ又は同時にダミーの素材をメッキすることで得ることができます。
膜厚の確認方法としては、X線などの機械を使って非破壊検査で計測する方法、事前に素材の膜厚を計測してメッキ後の膜厚と比較する方法、ダミーを切断して断面観察する方法などがあります。
いずれにしても、適切な条件下で適切な膜厚を確実に達成することが、無電解ニッケルメッキの最も大切なプロセスとなります。
膜厚の管理方法などについてはこちらの記事もご覧ください。
2.トラブルの事例:膜厚の不良

無電解ニッケルメッキの膜厚の重要性を前述しましたが、一方でこの設定がうまくいかずに苦労する事例もあります。
本記事では、過去に起きた膜厚不良の事例をご紹介し、その原因を探ってゆくことでさらに膜厚管理の重要性をご説明してゆきます。
事例の概要は以下のとおりです。
事例:
・用途は電子部品の検査等で使用するプローブ。
・材質は炭素工具鋼材(SK材)、ベリリウム銅。
・素材に無電解ニッケルメッキ(メッキ液は硫酸ニッケル)を施し、その上に金コバルトメッキを行う。
・このときの無電解ニッケルメッキにおいて、狙い値を下回った膜厚になってしまう。
・ロットの中の一部でこのような現象が起こっている。
・浴温度は一定(93℃)で、撹拌にはエアーを用いている。
このような事例での、考えられる膜厚不良の原因を、この後解説してゆきます。
3.事例における考えられるトラブルの原因と対策
膜厚の設定エラー

まず考えられる原因は、膜厚の設定エラーです。
通常、無電解ニッケルメッキを行うときは、まず設定のためにダミーの素材を処理します。
この際、処理後のダミーをX線検査または重量法にかけ、処理時間との関係から析出速度を算出します。
この析出速度をベースに本製品のメッキ時間を設定するのですが、ここの計測や算出にエラーがあれば、当然本製品の膜厚にもエラーが生じます。
ただし、このエラーの場合はロット全体的に膜厚が合わない現象が起こることが多く、本例の場合のロットの一部での現象の場合は、他の理由も考えたほうが良いかもしれません。
しかし、設定エラーは膜厚エラーの原因としてはまず疑うべき要因ではあります。
初期析出のズレ

次に考えられるのは、初期析出のズレです。
無電解ニッケルメッキは、処理温度まで製品が温まらないと析出が始まりません。
例えば、大きな製品と小さな製品をメッキ槽に入れ、同時にメッキをスタートさせようと思うと、そこにズレが生じます。
大きな製品の方が製品全体が所定の温度に至るまでの時間が長いため、析出のスタートが遅くなるためです。
このズレが膜厚の差となって表れることもあります。
また、ダミーとのサイズに差がある場合でも、計測した析出速度との差が生じることが考えられます。
析出時間は、初期析出までの時間も考慮に入れて考えておくことが必要です。
エアー撹拌の影響

もう一つ考えられる要因として、エアー撹拌の影響があります。
メッキ時の撹拌は均一性を保つ上でも重要なことです。
ただしこの撹拌には、エラー要因にもなり得ます。
特に、製品にエアーが過剰に当たるような撹拌が起こってしまうと、これによって膜厚に差が生じてしまう可能性があります。
本事例では、ここまで述べた複数の原因が複合して膜厚エラーが起こっている可能性もありますが、撹拌にエアーを使っており、膜厚にバラツキが生じていることを考えると、この原因が一番大きかもしれません。
撹拌条件を見直すことで、膜厚エラーも防げる可能性があります。
膜厚が予定より下回ってしまうと、製品の耐食性に影響し、耐久性を下げてしまうだけでなく、膜厚のエラーやバラツキそのものが、製品の信頼性を下げてしまいます。
仮にそのような事象が起きた場合は、必ず原因を究明し、対策を講じることも重要です。
本例の場合、製品と同じサイズのダミーをベースに設定し、同じサイズの物のみでメッキを行ってみて傾向を探ってみると、設定エラーや初期析出のズレの要因を省いた分析ができるため、より原因が明確になるかもしれません。
4.他にもある無電解ニッケルメッキの注意すべきメッキ不良
光沢不良や外観ムラ

無電解ニッケルメッキには、膜厚のエラー以外にもメッキ不良の状態がいくつかあります。
例えば、光沢不良や外観ムラです。
本来、無電解ニッケルメッキを行うと、製品は一様に綺麗な飴色シルバーの色になります。
ただし、前処理が十分でない、研磨不足、不純物、浴老化など、複数の要因から光沢不良や外観ムラが生じてしまうこともあります。
意匠目的のメッキの場合はこの不具合は致命的なので、注意が必要です。
剥がれや膨れ(密着不良)

剥がれや膨れが起こる場合もあります。
これらは無電解ニッケルメッキが素材表面と十分に付着していない密着不良が原因です。
多くの場合、前処理が不十分で、素材表面に油分などが残った状態でメッキを行ってしまったために起こってしまう不具合で、密着性を確保するための前処理はそれだけ重要です。
剥がれてしまった箇所は当然、皮膜本来の耐食性や耐摩耗性を保証することはできません。
ピットやピンホール

メッキにおいて、皮膜に小さな穴が空いてしまうことがあります。
素材まで到達していない穴をピット、到達してしまった穴をピンホールといいます。
ピットは前処理不足、異物混入、浴老化などで、ピンホールはメッキ内部に溜まった水素ガスなどが原因となって起こります。
無電解ニッケルメッキは耐食性に優れていますが、ピットやピンホールが生じてしまうとその部分から錆が起こってしまうこともあり、腐食の原因となります。
このような腐食を局部腐食といいます。
無電解ニッケルメッキは電解メッキと比べるとピンホールなどは生じにくいですが、このような局部腐食は製品寿命の大敵ですので、前処理の徹底や浴の管理など、十分な注意が必要です。
浴の管理について

メッキ浴は無電解ニッケルメッキの品質を左右する重要なものです。
浴の中に入っているメッキ液には、ニッケルの供給源である金属塩、還元剤の他に、析出速度を調整するpH調整剤、メッキ速度の促進と水素発生を防ぐための促進剤、メッキ浴自体の反応を防ぐこと等を目的とした安定剤などが含まれています。
さまざまな薬品の組み合わせがとても重要で、これらの構成が無電解ニッケルメッキの大きなノウハウでもあります。
このような構成を作ることを建浴といいます。
また、メッキ液量あたりに処理できる面積にも上限があり、これを超えて無理をさせようとしてもメッキ不良が起こってしまいます。
このことを浴負荷といいます。
前処理を十分に行った上で、適切な建浴、適正な析出時間や浴負荷、均等な撹拌などが、メッキ不良を起こさないために必要な条件です。
また、浴が老化することもメッキ不良の要因となりますので、メンテナンスも十分に行うことが大切です。
5.弊社の対応について

弊社 株式会社コネクションでも無電解ニッケルメッキに対応しております。
処理可能サイズとして、アルミニウムですと500mm×405mm t86mmまで実績がございます。
他の材料やサイズでも対応可能な場合もありますので、お気軽にご相談ください。
半導体製造装置向け表面処理として無電解ニッケルメッキを施し、メッキ処理後精密洗浄(クリーンルームクラス1000)にて精密洗浄、梱包まで対応可能です。
さらに、
・製品の部分的なマスキング対応、研磨工程など対応可能。
・ネジやナット、その他の小物などジグに装着できない製品へもバレルメッキなどで対応可能。
といった弊社独自の利点もございますので、ご検討の際は是非ご相談ください。
もちろん、メッキ不良のない高品質を常に心がけ、適切なメッキ条件にて処理を行っております。
お問い合わせ・ご相談はこちらまでお願い致します。
6.まとめ
本記事では、実例を用いて無電解ニッケルメッキの膜厚不良について解説し、その他のメッキ不良についてもご紹介しました。
以下はそのまとめです。
・無電解ニッケルメッキの皮膜の膜厚は、析出速度を設定し、そこからの析出時間で管理するが、この設定を誤ると、膜厚不良が起こってしまう。
・無電解ニッケルメッキは、素材がある温度に達しないと析出が始まらないため、大きさの違う素材を同時にメッキしようとすると初期析出にズレが生じる。
・メッキを均等に行うため、浴の撹拌は重要だが、エアー撹拌のときのエアーの当たり方で膜厚にバラツキが生じてしまうことがある。
・無電解ニッケルメッキには、膜厚不良の他にも光沢不良や外観ムラ、密着不良、ピットやピンホールといったさまざまなメッキ不良がある。
・無電解ニッケルメッキでメッキ不良を起こさないよう、十分な前処理、適切な建浴、適正な析出時間や浴負荷、均等な撹拌などに注意しなければならない。
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